オークランドに引き続き、ここシドニーでもラテンのグループと出会えた。
どこのホステルで生活しても、「それぞれ国ごとにグループで固まる」という人間の習性を垣間見ることができる。そしてラテンのグループはほかの国と比べ、どこか独特な暖かさが外側から見ていて感じられる。
ここシドニーのホステルで出会ったラテンのグループの中にフェリッペというアルゼンチン人がおり、彼とは部屋が同じだったため、毎日夜になるとバルコニーでマテをシェアしてくれた。
(マテとは、南米特にアルゼンチンやウルグアイで人気のあるカフェインを含むハーブティーで、苦味が特徴的です。 普通のコップに入れるのではなく、「マテカップ」と呼ばれるマテ専用のカップが存在し、僕もオークランドに滞在していた時に出会ったラテンのグループに触発され、購入しました。)
通常マテカップの内部は木で作られているのですが、フェリッペの持っているマテは木ではなく、プラスチックで作られておりとても小さかった。
アルゼンチン人として「マテの国の代表だ」というプライドと誇りを持ってしっかりとした木で出来たマテを持参しているのかと思ったが、彼が「これはトラベル用なんだ。持ち運びやすいし」と言っていた。
確かにちゃんとしたマテは、ペットボトル2本分くらいの幅があるため少し大きいし、それとは別にシェルバ(マテの茶葉)へ入れるお湯を保存しておく水筒なようなものも持ち運ばなければいけないため、旅向きではないのかもしれない。
もちろんプラスチックで出来ていても味はしっかりとマテだった。コーヒーよりもカフェインが強くて心臓がバクバクした。
バルコニーで夏の涼しい夜風に吹かれながら友達と飲むマテは最高だった。
マテはみんなで回して飲むというしきたりがあるらしく、みんな同じ一つのストローで回して飲むのですが、女の子でも全く抵抗なく輪に入って口を付ける。
誰かが「熱湯で吸うたびにストローは殺菌されているから大丈夫」と教えてくれたけど、それはストローの内側の話であって、口をつける外側も殺菌されているんだろうか?と疑問に思ったけど、深く考えるのはやめた。
オークランドでラテンに囲まれて詳しくなったマテだけど、オークランドでシェルバを入手するためには都心からバスで20分ほど離れた「パチャママラティーナストア」という場所にしかなかった。
幸いなことにここシドニーでは、大きなラテンのコミュニティーがホステル周辺のキングスクロス内に存在し、(グループチャットがあるらしい。)そこでシェルバを持っている誰かから少し高値だけど買う事ができるらしかった。
僕も「パチャママラティーナストア」で購入したアルゼンチンの木で出来たマテを持っており、久しぶりに荷物から出して使おうと決めていたので、この情報は嬉しかった。
「ホステルに住む」っていうのはネットなんかに載っていない生でリアルな情報が存在するから良いなと思う。その地域のニッチな情報はインターネットと睨めっこしていても中々出てこないし、ネットに公開されている時点でその情報はもう古く、書ける内容もコミュニティーやプラットフォームの規範、ルールを守らないといけないため、面白くもないし、本当に正確なのかも分からない。
テクノロジーがどれだけ発達していても、現地に行ってみなければ本当の事は分からないとつくづく思う。
バルコニーでのマテから始まり、だんだんとフェリッペと仲良くなったことでラテンの輪に入れてくれるようになり、10人くらいのラテンのグループと毎日のようにキッチンで食卓を共にするようになった。
ラテン10人、日本人の僕1人という感じだったけど、誰も抵抗なく僕と接してくれたし、途中から「僕もラテンの国出身なのでは」と錯覚するほど馴染むことができたし、スペイン語もいくつか覚えた。
なんというか、「初めて会った人でも、俺たちのグループに入っているなら親友の一人として接するぜ」というような空気感を彼らと時間を共にする中で感じることができた。
なぜこんなに僕が抵抗なくほかの国のコミュニティーに入れたかというと、長年のホステル生活への慣れというのもあるけど、「日本人である」というのも理由の一つかもしれない。
日本人はどの国へ行っても大体"マイナーな人種"でコミュニティーも少ない。だから今回のように自国のコミュニティーよりも他国のコミュニテーへ自分から踏み入れる機会が自然と多くなる。
もし自分がフランス人、ドイツ人、中国人などの"どこの国へ行っても多数いるメジャーな人種"だったら「あの国が固まるコミュニティーへ入ってみよう」とは思っても、近くにいる自国のコミュニティーにも気を遣う必要があったりするため、違うコミュニティーで関わるのは難しいのかもしれない。
そういう理由から、日本人は海外では周りに気を使わずに自由にコミュニティー間を移動できる楽な人種、他の国のコミュニティーへ抵抗なく入れる人種なのかもしれない。
彼らとはキッチンやバルコニー以外の場でも、スーパーに買い出しに行く時、友達と話している時にバッタリ会う。彼らは一度話始めると、いつこの話が終わるのか見当がつかないくらいどんどん話してくる。一旦静かになったらすぐに次の話題を探して話し続ける。
友達になって話しかけてくれたのは嬉しかったが、急いでいる時は彼らに対して頭を悩ませていた。
例えばスーパーの買い出しに行く時に知り合いが向こうから歩いてきたら、ラテン以外の奴らだったら「ヘイブロ!」だけで終わるんだけど、彼らは満面の笑みで握手をしてきたり、肩を叩いてきたりして「さてと、今何をしにいくんだい?仕事はどうだい?今日はジムへ行ったか?」という感じで30分くらいの長い会話が始まる。
彼らは単純に人間が大好きというか、「人とコミュニケーションを取ること」に対して人生で使う時間の優先度が非常に高いような感じがする。
そんなこんなである日、いつものグループから一人ガブリエルというアルゼンチン人の男が住む家を見つけてホステルを出ていくことになったことを知った。
キッチンではスペイン語が飛び交いながら、みんなでワイワイと彼のお別れ会的なことをやるために料理を作っていた。そのローカルなラテンの雰囲気に僕は入っていけず、ほかのグループと近所で買ってきたハンバーガーを食べながら話していた。
時間が経った後に、フェリッペが
「カズマ来い」
と僕を呼んでくれて、ガブリエルを囲ってみんなで食べているテーブルの輪の中に入り、みんなに握手をして挨拶をし、作った料理を分けてくれたり、飛び交うスペイン後をずっと聞いていた。
僕を含め全員まだ1,2ヶ月しか会っていないメンバーなんだけど、ここまで家族のような感覚を醸し出せて楽しい空間を作れるのってそう簡単にできることではないし、彼らの目を見ていても本当に楽しそうだった。日本人が10人集まってもこんな雰囲気にはならないと思う。すごいな、暖かいなラテンって。
その後に親しい4人でバルコニーに行って夜風に当たりながらコーラで割られたラテンのお酒を飲み、お互いガブリエルとの今までの思い出話をしたり、オーストラリア生活について語り合った。まるで今まで修羅場を乗り越えてきた戦友と深い絆で結ばれているような態度や接し方を彼らはしていた。
「こいつら同士会って1,2ヶ月くらいしか経ってないのにもう家族同然みたいな空気があるのってやっぱラテンの暖かさは本物だな」そう思った。