いつものようにホステルの外でペドロと一緒に話していると、誰かが人差し指と中指で僕の肩を軽くトントンと叩いた。
「カズマ、少し静かにしてくれないか?」
いつも飲んでるマテをシェアしてくれるディエゴだった。
いきなり注意されて驚いた。今までこんなことはなかったのに。。
すでにハイだったので歩いて行くディエゴを視線で必死に追いながら「おお」とか「ああ」とか声を出して返事をし、声量を落としてペドロと会話を続けた。
次の日の夜、またディエゴがフランス人の集団に「うるさいから静かにしてくれ」
と言っているのを近くで見た。何やら彼は夜の時間にパトロールとして働いているように見える。
彼のところに行って話してみるとやっぱりそうで、「それをやって給料は貰っているの?」と聞いてみた。
ホステルで働くとお金をもらえたり、宿泊料が安くなったりするのを今までの経験で知っていた。
「週3日、夜の10時から午前3時まで働けば一ヶ月の家賃を800ドルから400ドルの半額にしてくれるんだ。」
さらにどうやってこの仕事をゲットしたのか聞いたところ
最初はこのホステルを管理している中国人のジミーが仲のいいスウェーデン人のセドリックにこの話を持ちかけて、
ジミーが寝ている間に彼がパトロールしてくれることになったらしい。
セドリックがいなくなったら、ディエゴの順番になって働いているってわけらしい。
確かにいつも本を読んでいるセドリックが夜中に俺らの近くに座っているのを何回か見かけていたが、あまり気にしていなかった。
「こんなおいしい仕事があるのか」
すぐに受付にいるジミーの元に行って聞いてみた。
「次?カズマやる?いいよ。」あっさり決まった
ディエゴはあと一ヶ月でゴールドコーストへ行ってしまうので、その後に自分がナイトパトロールをやることになった。
そもそもジミーから「このホステルでナイトパトロールをしてくれる人を探しているんだ」
と聞いた時は驚かなかった。
このホステルはキッチン、リビングを囲うように部屋がそびえ立っているので、
夜にそこで話されると会話が各部屋に丸聞こえになる。眠れるようにと22時以降は静かにしなければいけない。 だからみんな外に出て騒ぎに行くんだけど、ここは住宅街のど真ん中なんだ。
静かな一軒家が並ぶ通りに若者の集団が解き放たれると、周りの住民はたまったもんではない。
さらに夏は熱気も高まって、週末クラブに行く前にここで10ドルの安くて四角い箱に入っているワインをみんなで回して飲んで叫んで、
盛り上がってくるとフランス人の男どもはバイクでウィーリなんかもして、、
暴れ回ったあとにクラブに行くようになっていた。
飲んだワインの箱、ボトルとコップをそこら辺に駐車している車のボンネットの上に置いて行ったり、 隣にあるキックボクシングジムの前にそのままタバコの残骸やらを捨ててクラブに行ってしまうもんだから かなり苦情が来ていたのは噂に聞いているし、僕も毎日外にいるから夜中に週2くらいの頻度でポリスがうるさくないかどうかのチェックをしに来るまでにもなっていたのを知っている。
よくよく考えるとかなりやばい状況だったし、ホステルの存在自体も危ういのではないかとジミーは言っていた。
「間違いない」と僕も思った。
ディエゴが去った。
次のパトロールとして働く僕は、ジミー率いるホステルの管理者メンバーが入ってるWhatsAppに招待された。
過去のチャットを漁って雰囲気を掴んでいると、ホステルの至る所にカメラがあるのでジミーはそこで様子を確認してうるさそうなら「注意して」とパトロールするものにチャットを送っているようだった。
チャット内の画像だけを見ると映画でよくみるカジノの管理室みたいだった。
早速初日、いつものように外に出るがいつもと違う立場の自分。
話すことはできるけど大きな声では話せないのと、自分が注意をしなければいけない。
金曜日だったので、フランス人の集団が案の定外で騒いでいた。
僕は「クラブに行く人は、ここに居ないで早く行ってくれ」と言った。
そしたら意外とすんなり聞いてくれた。
フランス人の集団の中にザヒードっていう友達がいたから、彼が僕のことに気を使ってかみんなにフランス語で何やら言ってくれていた。助かった。
、、正直去年ニュージーランドで暮らしている時から白人に舐められないように毎日ジムに通っていたので、体がたくましくなっているっていうのも多少は効いているかも知れない。。と願いたい。
次のシフトは月曜日。
この日はみんなクラブに行かずにホステルの前でずっと喋っているパターンの日だった。
ガヤガヤし始めた時に「静かにして」と言う。多少音量は下がるけどすぐにまた大きくなる。それの繰り返しだった。
イタリア人はいつもつるんでいるから僕の言うことを聞いてくれるんだけど、
それ以外の集団は会話の時間が面白いのか、なかなか静かにならないし、僕自身もずっとこの雰囲気を楽しんでここシドニーで生活をしていたというのもあり、あまり強く言うことはできない。
さらに毎日香港人のスンスンから貰うジョイント、フランス人のルイさんから貰うジョイント、自分で隣のホステルの売人から買ったジョイントでハイになっていたから、どうでも良くなっていた。ファックパトロール。
もちろん「ちゃんと責任感持って働けよ」と思うかも知れないが、こういう態度でも今までの国でバイトができてしまっていたので、これ以上ちゃんとやる意味がなかったし、日中にやっている仕事も一応あったので、ジミーには申し訳ないけど、もうどうでもよかった。
チャットを見るとジミーから「うるさくなっているから指摘して」ときてた。サムズアップのスタンプを押してすぐ閉じた。
人気がなくなって、辺りが静まった夜中、 いつものイタリア人の集団、ダリオ、ステファノン、メガネを付けてるステファノンとあと一人名前を聞けていなかった新しく入ってきた黒人の、夜でもサングラスをかけているイタリア人みんなで、隣のキックボクシングジムの前に座って仕事の話をしたり、女の子の話をしたり、近くのホステルに滞在している奴らが通り過ぎていく時に適当に声をかけて仲間に入れたり、近くでホームレスが歌っている声に耳を傾けてボーッとしたりしていた。
僕は眠くなってぼーっとしていたんだけど、彼らイタリア人はどんな時でも口だけは止まらない。ずっと何かしら喋ることがある。
ジョイントが回ってきたので吸ってから順番通りにダリオへ返した。
いつもとハイの感覚が少し違っていた。
会話の受け答えができなくなった。それに気づいたメガネのステファノンが僕のことを見て笑っているのは認識していた。
「カズゥーマ、このジョイントめっちゃ強いだろ。ハハハ!」
他のイタリア人はこのジョイントが何なのかもう分かり合っているのか、お互い笑顔になって僕の顔を見てきた。
「ちょっと違うものを混ぜているんだ。ベリーベリーストロングジョイント。お前はソファーに行って寝てろ」
パトロールどころではなくなり、そのままソファーに行くと僕のあとをみんな付いてきた(イタリア人っぽい笑)。
そのままソファーに倒れると、ソファーの中に液体として体が溶けて行くような感覚になった。 目を閉じると目の前で黒い球体が高速で回転していく。どんどん加速していく。それに酔いそうになって目を開けるが、体は目を閉じようとしてくる。苦しい。
隣にみんなが座ってそのまま静かに会話を続けていたが、僕は一人違う世界にいた。
ジミーが目の前を通り過ぎて、無様にソファーに寝転がっている僕を見たあとにどこかへ行ったのは覚えている。
