オークランドから3時間のフライトでシドニーに着いた。
時刻は午後8時になっており、事前に予約しておいたホステルの受付には間に合わないだろうから空港で寝て明日の朝、チェックインすることにする。
空港内にカフェを見つけた。ゆっくりと座って外を眺めることができそうな席があったから、そこでLサイズのラテを頼んで空港内を行き来する人々を何時間も眺めていた。
空港は特殊な場所で
「これから新しい生活が始まるぞ!とワクワクして空港から出ていくような人」 「仲間とお別れして空港の中に入って来る人」 「これから到着する人を待ちながらソワソワしている人」など、
まるで"不確定な未来に向かって進んでくスタート地点"のような感じがして、日常的にそう頻繁には見かけない人間の表情や雰囲気をここで一気に見ることができるから、長時間観察しても飽きなかった。
まあ、僕もそのうちの一人なんだけど。。
荷物を視界が入る場所に置き、ラテのカップを両手で包み込むように持ちながら外の人間を観察している間に、脳みそが勝手に「今までのオークランドの思い出」を走馬灯のように流してくるからそれに浸ったり、意識を現実世界に戻して空港内の人間を見たり、時々手に持っているコーヒーを飲んだりして時間を潰した。
約半年間オークランドで毎日世界中の旅人と交流をしたから、まるで人生の10年分くらいの経験をその期間で一気にしたような感覚になったし、それを味わってしまったらもうシェアハウスに住めなくなってしまったので、ここシドニーでももちろんホステルに住む。
午前5時に空港の職員たちの足音で目が覚め、お腹が減ったので空港内にあるマックへ行き、周りを観察しながら食べた。
「空港で食べる朝のマックは何でこんなに美味いんだろう。」
平日だったため、出勤ラッシュが終わった後に電車でホステルへ向かおうと決めていたので、お昼前まで再び空港をウロウロすることにした。
11月だったので日が出て来たら半袖で十分だった。
昨日と同じカフェ、同じ席でLサイズのラテを頼み、昨日と同じように空港に出たり入ったりしてくる人たちを眺めていた。
明るくなってから気づいたが、空港の外に見える建物はオークランドに比べてモダンで近代的だった。
オークランドはシティーでさえも、どこか南国のような甘ったるい肌触りの風や土の匂いがして、オークランド空港のバスでシティーに向かう途中も、まるでずっと続く何個もの小さい山々を開拓して一軒家をたくさん作り、道路を作り、しかし見た感じだとまだまだ開拓の途中、というように"なんちゃって都会"っぽい雰囲気だったので、そこで1年間暮らした後にここシドニーへ来ると、まるで田舎者が都会に来たような感覚になった。
ある程度フラフラし終えて時間を潰せたので電車に乗り、そこから歩いてホステルへ向かった。
駅からエスカレーターを上がり、地上へ出た。
オークランドと同じように全体的に人間の歩くスピードがゆったりとしている。
太陽の白い日差しと、風によって揺れる緑の木々。車は通っているんだけど、木が揺れる音の方が大きく、デジタル広告、音声も少ないので歩いていてとてもピースフルな感覚になる。人工的なデジタルの音よりも自然の音がどれだけ人間の心を癒してくれるのかよく理解できる。
もう少し具体的に説明してみようと思う。
シドニーの街を歩いていてピースフルな感覚になる要因として、"広告のさりげなさ"がある。
日本でいうと、新宿はとにかく目立つところに広告を貼りまくって、音を出し、色をチカチカさせ、人にものを買わせようという意志を感じるが、ここシドニーでは、昔からの綺麗なレンガ造りの街並みを尊重しているのか、その美しさを崩さないようにそっとお店の広告を表示しているような、まるで過去の人が建てた芸術作品をリスペクトしているような感じがするから、広告がうざく感じないし、その取り組みの姿勢自体も美しい。
事前に予約していたホステルに着いた。
「あれ、なんか嫌だなここ」
「建物の空間が狭い。その中にエネルギーがたくさんある若者が集まると、やはりどうしてもピリピリしてしまう。長期的にここで生活するとなると、ストレスが溜まってしまうかもしれない」
この最初の"直感"は物事を判断する基準として結構大事にしていて、"なんだか上手く説明できないけど嫌な感じ"があったら、良い設備がある、駅から近い、のような"目にみえるメリット"を一旦置いておくことにして、その直感にもう少し調査させる時間を取る。
街を散歩をしながら、シャワーを浴びながら、部屋で行き交う人の目とかエネルギーを見ながら、じっくりと。
結局そこは一週間で出ることにして、次にグレーヴという地域にあるホステルへ向かった。
グレーヴはシドニーのローカルな雰囲気が非常に強く出ていて、カフェ、お肉屋さん、古着屋さんとどれもローカルっぽい人が経営しており、通りに旅人のような格好をしているグループが少ない。様々な色の植物や木々が植っておりメルヘンチックな場所だったが、ここも一週間で出ていくことにした。
「なかなか良い場所が決まらないな」
「早く生活を落ち着けたいな。」
と思いつつ悲観的になっても現実は変わらないので、とにかく次のホステルを予約してそこへ向かった。
短期的な旅でプランが決まっているのなら「どこに泊まるか」なんてそこまで気にしないが、これからビザの期間が許すまでの1年間シドニーに滞在すると決めており、まるで我が家のような安心して住める場所を見つけたいと思っていたため、住む場所を選ぶのにこれくらい慎重になるのは僕の中で必要なことだった。これによって1年間心地よく、後悔なく暮らせるためと考えたら必要なプロセスだった。
「今度こそは」と思いながら次のホステルがあるキングスクロスという地域にあるホステルへ向かった。
駅を出ると外は快晴で、ここも人がゆっくりと歩いていて、太陽の白い光が緑の木々に反射し、葉の間から漏れる光も様々な角度へ散っていた。白い光、緑の葉、それに茶色いレンガ造りの建物の色合いがそれらの自然とマッチしていて、街が一つの芸術作品のようだった。
僕のスーツケースを引く「ガラガラガラ」という音がよく響く静かでゆったりとしている住宅街の一本道を歩き続け、Googleマップが指す場所と僕の現在地が重なった。
「え、ホステルではなくて家?」
確かに看板があり、そこには予約したホステルの名前が書いてあった。
通りの中で、一番立派な作りで3階建ての一軒家だった。
近くに女子校があるのか、制服姿の女性たちの群れが来たので、建物へ入ろうとしたけど10秒くらい彼女らが目の前を横切るのをを待ってから、スーツケースを担いで階段を上がりで中へ入った。
建物の中からも、去った後の彼女らの笑い声がよく聞こえた。
1階の受付に行くと先ほどの通りを大きな窓から見渡すことができ、太陽の白い光もたくさん室内に入っていた。
「開放的な雰囲気で、落ち着いていて良いなここ」そう思った。
「こんにちは、予約したカズマです」
受付にいた中国人っぽい3人が僕に挨拶を返し、僕が渡したパスポートのコピーを取った。部屋にはアジアの作品っぽい赤い提灯や、中国語で書かれた名言のようなポスターが飾ってあった。
「パスポートありがとう。あなたの部屋はRoom5。ラッキーだね。良い部屋だよ」
そう言われて、部屋の暗証番号、wifiパスワードなどが書かれた紙を受け取ると、部屋に案内してくれた。
絨毯が敷かれた階段を2階へ上がり部屋の暗証番号をタップしてドアを開ける。、、この瞬間が毎回緊張するんだよな。
ドアを開けると8人部屋で、受付の窓と同じ方角で外から光が部屋に降り注いでおり、その窓の先には、なんとバルコニーがあった!
この部屋には僕しかおらず、ここに置かれている様々な服や靴、道具などを見ながら、どんな人が生活しているのか予想するのもホステルに住む際の面白ポイントだ。
荷物を指定されたベットの近くへ置き、さっそくバルコニーへ出ると、先ほどの通りを一望できた。木が目の前で揺れている。僕は両肘を手すりに付き、しばらく向かいのカフェや人、車が行き交うのを眺めていた。
「あ、ここに住むな。」
そう確信した。
荷物を整理して、手ぶらでこれから暮らす街の近くを散歩しに行くことにした。
ホステル決まった!これからどんな生活が待っているんだろう!!