最上階の5階にある男女共用のシャワールームに入り、洗面台の大きな鏡が見えるようにドアを開けながら頭をバリカンで剃っていた。
外のカーペットの床が軋む音がして、一人の女性が入ってきた。
彼女は僕に目線を向けてからメイクアップを落とし始めた。夜の静かなバスルームに無言の2人という何とも気まずい状況になったから、声をかけてみた。
彼女の名前はエラで、19歳。ドイツ人で首元に何本かゴールドのネックレスをつけていたから、動くたびに"ちゃらん"と音が鳴った。
「イヒビンカズマ. シュンディヒケネンツレアネン」と言ったら笑ってくれた。
それからしばらく、たわいもない話をした。
肩まである長いパーマの髪が笑うたび左右に揺れた。
彼女がいなくなった後も、丁寧に自分の頭に剃り残しがないか確かめて綺麗になった坊主頭を今度は扉を閉めてから洗った。階段を降りて部屋に戻り、ドアのパスワードのナンバーを入力するたびに音が出てしまうことを考えてタオルをドアに引っ掛けておいたので、それを拾ってからゆっくりドアを閉めて、みんなを起こさないように静かにベットに入った。
次の日キッチンで肉を焼いていると、昨日バスルームで会ったエラがいた。
今度は彼女の方から話しかけてきてくれたので、沈黙には困らなかった。
肉の焼き具合を見るのと同時に、彼女の話に相槌を打つのには結構神経を使った。
「私もRoom5だよ!ノーシィ!カズマも!?」
彼女は2日前に着いたばかりで、このホステルにたくさん人がいたり、入れ違いがあったり、さらに夜は部屋が暗かったから全く分からなかった。
大体部屋にいるメンバーは朝起きたら 「あ、なんか新しい人寝てる」って分かるんだけど、いつも大体朝は起きないし、昼は基本みんな外にいるので誰がどこで寝ているかなんて気にしていなかった。
結構おしゃべりな彼女とこれから一緒の部屋で付き合っていかなければいけないのかと思うと、少し面倒だったが、「せっかく海外に来て友達もいるんだから、どんなことが起こっても毎日を楽しもうじゃないか」とも思った。
肉とアボカドとニンニクがたっぷりと乗った料理を持ってソファーへ移動して食べていると、エラが隣に座った。エラはパスタだった。
彼女は僕に好意があるとかではなくて、とにかく誰かとおしゃべりをしたいみたいだったので、僕はただ聞いていた。
キッチンが閉まる時間になる前にお皿を洗って一緒に部屋に戻った。
朝早くからコンストラクションで働くイギリス人のルイスが寝る準備をしていたが、エラがベットからノートを取り出して「今日の日記を書く」と言い出し、部屋の床の絨毯に2人であぐらをかいてまた話し始めた。
日記を書きながら「Kirschkernweitspuckweltmeisterschaft」というめちゃめちゃ長いドイツの単語を教えてもらったり、マシンガントークを冷静に受け止めたりしていると、ふと話題がエラのお兄ちゃんになった。
エラ自身の話は中身が無くどうでも良かったが、 「こんなエネルギッシュなエラの兄はどんな人なんだろう」と気になって、この日初めて僕はエラの言葉に耳を傾けた。
お兄ちゃんはスペインのバーで働いていて、「ずっと仕事が辛くて辞めたい」とエラによくチャットで相談しているらしい。 (彼ももちろんドイツ人だが、ユーロ圏内なのでビザ無しでスペインでも働くことができる)
「お兄ちゃんはネガティブなことがあると、タトゥーを彫ってその感情を発散するんだ」
そう言って、エラは日記を見せてくれた。
そこには、日記以外にもイラストが描かれていた。
「このイラストをお兄ちゃんに送って、そのデザインを参考にしてお兄ちゃんがタトゥーを入れるの」
「せっかくだから、カズマにもなんかイラストを描いて欲しい。お兄ちゃんはイラストの意味を欲しがるから、イラストとその意味を考えて欲しいの」
彼女のペースに乗せられて、結構会話が楽しくなっていた僕は、少し真剣に考えてみることにした。
10分くらいでイラストが完成して、意味を説明したら意外と喜んでくれて、その場でお兄ちゃんにその画像を送った。
「いいのか、お兄ちゃんと俺は会ったことないぞ。。」
「大丈夫!日本ではどうか分からないけど、ドイツで私の彼氏と予定が合わない日は、彼氏の友達と遊ぶことだってよくあるんだよ」
ルイスはこっちをチラチラ見ながら寝たそうにしていた。
僕らは部屋の電気をつけたまま、大声で話し続けた。
[一番長いドイツ語の単語の写真]iPhone8+にある?
FIX: