僕はよく作業場所として、オークランドの市立図書館を選ぶ。
1年の滞在期間のうち250日以上は通っていたから、あそこは僕にとって第二の家のようだった。
第二の家の近くに(近くにと言っても、オークランドは狭いから全てが近くにある)オークランド大学があって、授業の合間に大学生がよく課題をやりに来ていることがある。
それ以外にも観光かワーホリできた人がスーツケースを引きずってきて椅子でリラックスしていたり、おっさんが床に寝ていたり、ホームレスの情報交換の場になっていたり、結構自由だ。
これらに対して周りも寛容的な「そんなもんだよね」って空気だったから僕もそれに適応していた。
いつも2階にある大きな一枚の木の板で出来たテーブルに座る。
そしていつも同じ時間帯に2人組の女子学生が僕の向かいか、斜め横に座る。
1人はブロンドで、もう一人はサーフィンをやっている人のような黒とブロンドとオレンジっぽい色が混じったような髪色をしていた。どちらも170cmくらいだった。
ブロンドの女性がしっかりもので、もう一人のサーフィン女子のボケを拾うような会話をしているのが印象的だった。いいコンビそうだった。
でも僕はここに作業をしにきていたので、それ以降二人がそばに座っても全く気にしなかった。
そんなある日、いつものように木のテーブルに座っていると
彼女らは明らかに僕を見ながら話していた。僕の目線はパソコンに向かっていたけど、2人が視界に入っていた。
「なんか顔についてるのかな?」 「なんかここの文化的におかしい態度で作業をしているのかな?」
5分くらい経つと僕の意識は作業に戻り、それについて気にすることを忘れていた。
それから次の日もその次の日もチラチラと2人は僕の方を見て話していた。
僕には集中しなければいけない作業があったからその事について深く考えなかった。
そしてまたある日、僕が帰ろうとして席を立ち、エスカレーターで一階に降りると、これから"課題という名のおしゃべり"をしに2階の木のテーブルに座りに行くであろう彼女らとすれ違った。
軽く目で挨拶をしようと思ってチラッと視線を向けると、彼女らも見てきた。
体感的に長い2秒間のアイコンタクトをして、それぞれ上の階、下の階へエレベーターによって運ばれていくと、後ろから「話しかけなよ!ほら!」とブロンドの女の子がサーフィン女子へ話しかけたのが確かに聞こえた。
男女限らず僕たちはロマンチックな事になると、お花畑のような妄想をして暴走することがあるから、こういう話は確信があるまではなるべく書かないように、人に喋らないようにしているけど、今回は明確だった。彼女が僕に好意を抱いているということが。
次の日いつもより少し小綺麗な服を着て図書館へ向かう。(単純だな俺、、)
ああ、作業どころではなくなった。
集中できない。
今まで全く意識していなかったサーフィン女子のことが気になり始めた。。
50%集中、50%は上の空で作業をしていた。いや、10%集中、90%上の空かな笑
気になって作業どころじゃない、早く彼女に話しかけてこのモヤモヤを解消して、作業に集中したい。 でも2週間も一緒で何も話さなかった男がいきなり話しかけたら驚かれるし、"彼女の好意に反応してすぐものにするために話しかける"というマインドもセコい(僕が傷つきたくないことの上手い言い訳なのかもしれない)
そんなある日、チャンスは訪れた。
都会の中心地なのに電子広告などの騒音が全くない、車の音も聞こえない、晴れていて風が気持ちく、人がゆったりとした速度で歩いている平和なオークランドのお昼頃、僕は休憩がてら図書館の隣に併設されているワークショップの外にあるベンチというか、よく人がぼーっと通りを眺めているときに「良い感じにベンチとして使われている大きいコンクリート」に腰をかけていた。
すると、彼女らが僕の前に位置する階段に座って、somethin dumplingというすぐ隣にある有名な小籠包のお店のパッケージを手に持ちながら腰をかけていた。
僕はここのコンクリートで人だかりをぼーっと眺めながら座っていたので、彼女たちが僕を見つけて近くに座ってきたのか、ただ気づいていなかったのかは分からなかった。
リラックスしていた体が一変して、
ここまできて話しかけないって逆に男としてどうなの?おかしいだろ! 彼女らがいつ図書館へ来なくなるのか分からないよね! ここは海外で知り合いも少ないからどうなってもいいや! 早くこのモヤモヤを解決して作業に集中したい!
このような感情がぐちゃぐちゃになって脳内に渦巻く。体が熱くなる。
僕の体は自然と彼女らが座っている場所へ向かっていた。
怖がらせないように、ゆっくりとした足取りで彼女らの前に向かい、目の前に立つ。
「それどこで買ったの?」
これが彼女らと交わした第一声だった。
「あそこです!」とブロンド女子が言った。
その後ブロンド女子がサーフィン女子をエキサイティングそうな目で見て「あなたも何か言いなよ!」というようなシグナルを送っていた。
、、僕はその次の言葉が出てこなかった。。完全に勢いで話しかけたから。でも何かを言わなければいけなかった。
"ahhh, take me there"
二人は目を合わせて、"なんだこいつの英語、、アクセント変だし、なんか文脈の意味が分からない。私たちにそこへ連れってってどうしろっていうんだ"そんな目で見てきた。
「え、怖がらせたっぽい。。」
そうするとブロンド女子が
「あーー、不幸なことに、私たちはそこまでお金がないんです。すぐそこだからあなたが一人でいけますよ sir」
語尾にsirが付いた、、明らかに警戒されているし、なんで俺は一緒に行こうって言ったんだ。。彼女たちはもうそれを買って座って食べていたじゃないか。ああ!!
「分かった。じゃあね!」
僕がそう言った後、somethin dumplingへ向かったが、彼女らは困惑した表情で何やら二人で話し合っていた。
ここでお店へ行かなかったらダサいから僕は10ドルの小籠包をちゃんと買って食べた。
その日以来、僕がいつも座るあの木のテーブルに彼女ら2人は姿を表さなくなった。
なんだか2人お気に入りの"課題という名のお喋りの場所"を奪ったのが申し訳なくなった。
「これで一歩また苦しみを味わって成長したな」 「ニュージーランドで女の子に引かれたっていう話のネタができたな」 「上を向いて歩こう、自分」
そう解釈してこれからも生活を繰り返していくことにした。