僕が住んでいるRoom11には、とっても美人なドイツ人の女性がいる。
「動物として強ければ細かいことは気にならない?」の章では、クラウディオの他にも部屋に彼女がおり、色々な出来事が起こったんだけど章の内容とずれてしまうから触れてこなかった。
彼女がベットに座っていたのを見た瞬間から、2ヶ月後に彼女がドイツに帰るまでの間、
「なんでこんな美人がホステルなんかに住んでいるんだろう」
ずっとそう思っていたが、男のルームメイトたちも意見は同じだった。
僕のベットは彼女と隣で、最初の一週間は
「こんな美人が隣で寝てるの?!」って感じで現実を受け入れるのに時間がかかったが、時間と共に慣れてきた。
でも1ヶ月が経っところ彼女は夜中になると、違う部屋のベットに行き、男と寝るようになっていた。
「最初の印象」っていうのはとっても大事で、その後も大体それに基づいて評価される。
だから僕が最初に同じ部屋で彼女を見つけた時に消極的な男としてみられないように、
「こんにちは、名前は?」とか聞いたり、握手をしたりした。
正直緊張したけど、彼女と目が合ってしまったら引き下がるのはカッコ悪いから、堂々と話した。
ベットの上にある荷物の散らかり、部屋の外での振る舞いを見ても"もうここのホステルの住人"っていう雰囲気が出ていたから、(2,3日で出ていくようなタイプの人ではないから)
「彼女と一定期間、隣のベットでこれから一緒に生活ができるのか」
と期待を膨らましながら生活をしていた。
ラヴィーニャはブロンドで長身、もちろんドイツ人だから英語は流暢でいつもスタイルを隠せるようなブラックのフーディーを選んで着ている。
着替える時に周りに男がいてもお構いなく下着を見せてゆっくりと着替える。
その瞬間クラウディオが僕にスペイン語で「ほら!カズマ!見ろ」って言ってきたり、トルコ人のチも同じように動きを止めて、3人の視線は毎回彼女に集中していた。
まあなんだろう、クラウディオもチもかれこれ長い間住んでいるみたいで、彼女もそのメンバーに慣れていたから「いつもの事」って感んじであまり気にしていなかったように見えた。
僕たちが堂々と見て彼女もそれに当然のように気づいていて笑っており、
美人で、お高く止まっていない、気取っていない彼女の姿勢に好感を持った。
僕自身彼女ともっと話してみたかったが、朝働く必要があって、夕方になると彼女はどこかへ行って夜中はドイツ人のグループとつるんで、僕は寝なければいけないという状況だったのであまり接点がないまま時間が過ぎた。
ある夜を境に、彼女はRoom11で寝ることは少なくなっていった。
アルバイトから戻ってきて、キッチンに行くと彼女は最近来たドイツ人の男と一緒にテーブルでパスタを食べていた。
普通を装ってその場を通り過ぎたけど、内心ではかなりショックだった。
その夜以来、彼女はRoom11で寝ることが少なくなっていた。
気になっている女性が他の男といる状況を生で見る機会って少ないと思うんだけど、ここホステルではよく見かけてしまう。
夜に男の車から降りてくる女性、ホステルに連れ込んで一緒に寝ている女性、一緒に夕食の時に話していたけど、次の日は違う男とよく話している女性。
もうね、嫌だった。おかしくなりそうだった。でもこういう環境が男として強くしてくれた。
「強い男になりたい」
「かっこいい男になりたい」
「もうこんな辛い思いはしたくない」
気持ち悪いかもしれないけど、これが僕の心の叫びだった。
悲しくて、もう嫌になって、ホステルを出ていく。人に嫌悪感を抱いて生活をする。そうやってこの問題から逃れる方法もあるかもしれないけど、この男女の問題は人間として生まれた以上避けては通れない。ましてや僕は男女が入り乱れるホステルで生活しているし。
「一生弱い男として苦しむのか、強い男になるために苦しむのか」どっちも苦しみは同じだ。
僕は落ち込むのではなく、解決する方法を取って生きていく。そっちの方が逃げるよりもずっと楽だ。どうせどっちも苦しいんだし。
夜暗くなったベットの中で眠ることができず、こんな事を頭でぐるぐると考え事をしていた。
「他の男にあって俺にないものってなんだろう」 「なんでこんな状況になったんだろう」 「俺に足りないものってなんだろう」
今までの人生を思い返していた。
「なんで俺の体ってこんなにヒョロヒョロなんだろう」
「たくさんの男(選択肢)がいるこのホステルで、女性は俺を選ぶと思うか?」
「まずは筋肉をつけなければ、男として話にならない。ましてや海外のホステルなんだから。」
ぐるぐると頭が回って答えに辿り着いた時、無意識にスマホに手が伸びて、ジムの契約の予約をしていた。
「ここのホステルで生き残るためにはまずは鍛えるしかない」という今までの体験から来るの強烈な思いによって、ムッキムキの人たちがいるジムの怖さ、不安、ジムのトレーニング器具の使い方が分からないどうしよう、とか、どうでもよかった。僕は早くジムへ行く必要があった。