ジムに行き始めた

ポップミュージックが大音調で響き渡る2階建ての体育館のような構造の建物に入ると、そこには人々がごった返していた。

ムッキムキの学生集団、コンストラクションワーカーのユニホームを来たままトレーニングをしているラテンやマウリっぽい人々、年配の方々、、

夕方5時ということもあり、熱気があった。

人生で初めてのジムということもあり、内心ビビっていたし、この熱気に圧倒されていた。

ムッキムキで爽やかな青年に契約の申し込みをしてもらった後、早速ロッカールームへ行って着替えることにした。

ロッカールームに入ると、「海外のジム」って感じがして、

鏡に向かってポーズをして、それを友達が撮影していたり、 座りながらヘッドフォンをしてスマホを見ているムッキムキの黒人がいたり、 アジア人の学生が集団で着替えて何やら話していたり、

ここでもビビっていたが、普通を装って着替えた後に施設を見回していた。

1階にカーディオや簡易的なダンベルと器具が設置しており、2階へ行くと"マジな奴"しか入れないような雰囲気で、ダンベルがズラーーっと並び、それに沿って壁一面に超大型の鏡も設置されていた。

2階は初めての人が来るもんじゃないと察し、1階でトレーニングすることにしてみた。

とは言っても今までウェイトを持ち上げたことがないし、何をどうやればいいのかさっぱり分からなかった。

器具に簡単な解説が貼ってあったが、初心者と思われたくなかったので、色々と考えていると、

「隣の人の真似をしよう」

と決めて、ダンベルが置かれてある場所へ行き、チラッと横目で隣の動作を確認しながら同じことをした。

その後に50m先にあった固定されていた自転車のようなものに30分ほど乗って汗を流した。

そんなこんなで、人生初めてのジムを終えた。

ホステルに帰った後、クラウディオにダンベルのトレーニング方法を教えてもらって、次の日、また次の日と僕は行き続けた。

バイトが終わった後予定があって遅くなってしまっても、ホステルのラテンの奴らにビールを飲まされても夜中にジムへ行った。

通い始めてから半年間、僕は一日も欠かさずにジムへ行った。

これって今から当時のことを思い出して「よく行ってたなー自分」って感じるんだけど、

とにかくクラウディオの動物的な強さに憧れていたし、ラヴィーニャの事もどこか頭の片隅にあって。。

とにかく、毎日行かなければずっと弱い男のままになる、強い男になるって決めたんだから、今日行かなかったら未来の自分により多くのトレーニング量を与えることになる。と考えていたから当時は毎日行くのが当たり前だった。まるで歯を磨くのと同じように何も考えずにただ毎日ジムへ向かっていった。

日本だとあまり感じなかったけど、ここニュージーランドで体格がいい男に囲まれると、自然とナヨナヨしてしまう自分に気づいて、それが男として許せなかった。堂々と街を歩けない人生ほど苦しくて虚しいものはない。と本気で思っていたし、その考えは今も変わらない。

「日本では割と普通に暮らせていたけど、ここでは明らかにデカさが違うから、状況が昔とは違うんだ。自分は強くならなきゃいけないんだ」

こんな考えたちが、僕の心の奥底に張り巡らされていたから、ただ無心でジムへ通って体を鍛えていた。

今思い返せば、これは海外のホステルで生き残るための本能的な生存戦略だったのかもしれない。

この後、シドニー、チェンマイ、そして日本に帰国したが、この習慣は今でも続いている。

お金を持っても男として、動物として強くなかったら、ここでは誰も気に留めない。リスペクトされない。 良い服を着てても強くなかったら、仕草やオーラですぐ化けの皮が剥がれてしまう。

ここニュージーランドの若い男女が密集するホステルに住み始めて、「一人前の男」になるという下地の大切さに気づけたから 本当に良かったと思う。体は以前に比べてとても逞しくなったし、その恩恵もたっくさん受けている。

もっと強くなる。