グッドコーヒー

「どんなお店に入ってもコーヒーのハズレはない」

誇張なしで、そのくらいここオークランドは美味しいコーヒーで溢れている。

カフェはもちろん、コンビニやガソリンスタンドでテイクアウトできるコーヒーにもしっかりとしたバリスタマシンが使われているから驚いた。

「え、ガソリンスタンドでこのクオリティー。。」

そのくらいこの国はコーヒーに手を抜かない。

そんな美味しいコーヒーがどこへ入っても飲めることが保証されているオークランドの街で、美味しさは普通だけど、毎日通い続けた「中国人のおばちゃんたちが経営しているデリ」の話をしようと思う。

(デリ: 手作りのサンドイッチやスープなどを販売している小さな食料品店)

オークランド空港からシャトルバスに乗って「小さい山がボコボコあって、その傾斜に無理やり人が住める場所を作ったような街」を走り抜けながら中心地について、そこで降りた。

港っぽい、生暖かい風が肌にまとわりついた。

ホステルへチェックインするまで時間を持て余していたので、スーツケースを転がしながら街を散策していた。

時差ボケで眠かったが、スリに合わないように背筋を伸ばして堂々とスーツケースを引いて歩くことを心がけていた。

Sky Towerの近くに、"Pork Bun"とでっかく書かれた、みどり色の看板が目に飛び込んできた。

「あ、肉まんが売られている」

お腹も空いていた僕は、そのデリヘ吸い込まれるように入っていった。

店内では中国系のおばあさん3人が切り盛りをしており、目当ての肉まんと追加でラテも買って片手でそれらを持ち、もう片方の手でスーツケースを転がして広場のベンチへ向かった。

中心地なのに、聞こえてくるのは信号が変わった時の「キュポポポポポポ」という音とカモメの鳴き声。とても静かな街だった。

ベンチに座りながら通りの傾斜を上り下りしている人々をぼーっと眺めていると、眠たくなってきた。

寝ないように夢と現実を行ったり来たりしながら

住む場所どうしよう、

お金尽きたらどこで寝よう、

仕事見つかるかな、

これからのニュージーランド生活を不安に思ったり、

ニュージーランドではどんな物語が待っているんだろう、、そんなことが勝手に頭に浮かんできて頭の中をゆらゆら泳いでいるうちに、白いボールのようなものが僕の足元で3つ、不規則なリズムで動いていた。

カモメたちが僕の周りを囲っていた。

キュポポポポポポ....

ホステルのチェックインを終え、オークランド生活がスタートした。

そこで2週間過ごした後にシェアハウスを見つけて、そこへ移った。

6ヶ月間その家で過ごしたんだけど、オーナーにキックアウトされて、あのホステルへ戻ってきた。

無事ホステルのチェックインを終え就寝。次の日の朝になり、腹が減った。

良さげな飲食店を探している余裕が無いくらい、お腹が減っていた。

あのデリはホステルから近かったので、またそこへ行くことにした。肉まんとラテとサンドイッチを買った。

店内には、これから働きに行くコンストラクションワーカーや、すぐ近くにあるオークランド最大級のカジノがあるホテルで働いているであろう人たちが、コーヒーを片手に同僚と話したりしていた。

ぼくもあと30分で当時働いていたホテルのシフトが始まるため、テーブルに座らずにそのままテイクアウトしてデリを出ようとすると、

「あれ、前にも来たね?ここに住んでるの?」

デリで働いている中国人のおばちゃんの一人にそう言われた。

「半年前に来ただけなのにまだ覚えていたのか」

その時は急いでいたから、軽い会話を終わらせてホテルへ足早に向かった。

ホステルから近くて、バイト先のホテルへの通り道ということもあり、それから毎日そこでカフェインを貰いに行く習慣がついた。

このデリは一人のおばちゃんが店の掃除をしたり、常連の客と話したり、

後の2人がレジにあるバリスタマシーンでコーヒーを作ったり、肉まんやサンドイッチを温めていた。

今日もデリに行き、掃除係のおばちゃんが僕に

「あなた日本人なの?」 「どこで働いているの?どこに住んでいるの?」

と、ただのお客さんとしてではなく、まるで近隣の住人のように興味を持ってくれた。

最近シェアハウスをキックアウトされたこと、

バイトをいくつかクビになったこと、

カナダで1年暮らしてからここニュージーランドに来たこと、

マシンガントークのように喋ったが、熱心に聞いてくれた。

常連さんも沢山いることからも分かるように、ここには人を迎え入れる家っぽい雰囲気があった。

そうこう話しているうちに、ラテと肉まんをレジ係のおばあちゃんが僕の座っているテーブルに持ってきてくれて、丁寧に「ありがとう」と言ってテーブルにラテを置いた。

3人とも健康そうで常に笑顔だった。

「コーヒーの質で勝負」とか「お金を稼ぐ」とか「店内が今風でオシャレ」という訳ではないんだけど、

「お客さんが居心地よく過ごすこと」を最優先にしているようなエネルギーがここのデリからは伝わってくる。

1ヶ月くらい経つと、僕がデリの自動ドアを通るだけで「おはよー!ラテ、ポークバン?」と笑顔で聞かれるようになった。

他の常連客と話しているおばちゃんを、少し嫉妬しながら見ていた。

今日もおばちゃんがいつものように「ありがとー」と言いながらコーヒーを持ってきてくれた

、、、とはいえ、せっかくカフェ大国オークランドで毎日同じデリも勿体無い。次の日から違う場所へ行ってみることにした。

次の日、ホステルから5分くらいのカフェを見つけて入った。

道が平面だったらもっと距離が近いと思うが、オークランドはどこもかしこも急勾配で近くにあっても着くまでに時間がかかる。。平らな道路は一体どこにあるんだろうというくらい山、谷、山、谷って感じだ。

そのカフェのバリスタはアンドリュー

コーヒーを作っている間の立ち話で分かったんだけど、彼自身バリスタ教室に行って資格を取ってお店を始めたらしい。

ここにも1ヶ月間くらい通い、僕が来ると何も言わずに$5.50というフラッワイ(フラットホワイト)の値段であるカードリーダーを差し出してきたくらいにはなった。

デリに比べると味はすっごく良いんだが、アンドリューは寡黙だった。話しかけると一言だけ返してまた彼自身の世界に戻っていく感じのバリスタだった。

それにしてもオークランドのコーヒーはミルクが滑らかでスッと飲める。

オークランドの「俺らはコーヒーに手を抜かないぞ」という文化に魅せられてから、その後あのデリとアンドリューの場所以外にも色々な場所のコーヒーを試した。

もちろんまだ試してみたいカフェはたくさんある。

でもなぜかまた、あのデリに行きたくなっていた。

次の日の朝、ホテルのシフト前、久しぶりにあのデリに寄ることにした。

僕が何ヶ月か離れていても、 「お、ラテ、ポークバン?」と聞かれた

僕は「うん」返した。

窓を掃除しているあばちゃんも 「お、どこ行ってたの、久しぶりじゃん」と声をかけてくれて、今までオークランドの色んなカフェを回っていたことを話すと

「色んなコーヒーを試しなよ!ここはオークランドだよ!グッドコーヒー!グッドコーヒー!」と僕に言った。

席に座った後に、いつものようにおばちゃんが「ありがとう」と言ってコーヒーを運んできてくれて、常連さんもチラホラ現れて、、、

あーやっぱりこの雰囲気

次の日の朝、僕の足は自然に"Pork Bun"と書かれた看板を目がけて歩いていた