「どんなお店に入ってもコーヒーのハズレはない」
誇張なしで、そのくらいここオークランドは美味しいコーヒーで溢れている。
カフェはもちろん、コンビニやガソリンスタンドでテイクアウトできるコーヒーにもしっかりとバリスタマシンが使われているから驚いた。
「え、ガソリンスタンドでこのクオリティー。。」
それくらいこの国はコーヒーに手を抜かない。
そんな美味しいコーヒーがどこへ入っても飲めることが保証されているオークランドの街で、味は(オークランドレベルで)普通だけど、毎日行き続けていた「中国人のおばちゃんたちが経営しているデリ」の話をしようと思う。
(デリ: 手作りのサンドイッチやスープなどを販売している小さな食料品店)
オークランドに着いた当初、ホステルチェックインまで時間を持て余していたのでスーツケースを転がしながらあたりを歩いていると、緑色の看板が目印のデリがあった。
お店の外に小さい看板が建てられており、そこにでっかく"Pork Bun"と書かれていた。
「あ、肉まんが売られている。」
僕は吸い込まれるように入っていった。
店内では中国系のおばあさん3人が切り盛りをしていた。
目当ての肉まんと、追加でラテも買って片手で上手に持ちながら、もう片方の手でまたスーツケースを転がして広場のベンチでそれを食べることにした。
座って通りをぼーっと眺めていると、これからのホステル生活を不安に思ったり、その時勉強していた物事の進み具合がものすごく遅い自分に嫌悪感を抱いたりしたけど、そんなことを考えているうちにカモメが僕の周りを囲っていた。
ふっと現実に引き戻された。
ホステルのチェックインを終え、次の日の朝になり、また腹が減った。
良さそうな飲食店を探している時間がないくらい僕はお腹が減っていた。
朝の8時頃、またそのデリに行って、今度は肉まんとラテとサンドイッチを買った。
これから働きに行くコンストラクションワーカーや、すぐ近くにオークランド最大級のカジノがあるホテルで働く人たちが、コーヒーを片手に同僚と話したりしていた。
ぼくもあと30分でその時働いていたホテルのシフトが始まるため、テーブルに座らずにそのままテイクアウトしてデリを出ようとすると、
「あれ、昨日も来たね。ここに住んでるの?」
デリで働いている中国人のおばちゃんの一人にそう言われた。
「昨日一回来ただけで、僕のこと覚えているし、なぜすぐに関心を寄せるんだろう」ちょっと驚きだったけど、自分のことを認識してくれてたことが嬉しかった。
その後も、ホステルからも近いと言うこともありほぼ毎日ホテルのシフト前にそこでカフェインを注入して行くと言う習慣がついた。
このデリは、おばちゃんの一人が店の掃除をしたり、常連の客と話したり、後の2人がレジにあるバリスタマシーンでコーヒーを作ったり、肉まんやサンドイッチを温めたりしていたことが分かってきた。
今日もデリに行き、掃除係のあばあちゃんが僕に、
「あなた日本人なの?」 「どこで働いているの?どこに住んでいるの?」と、ただのお客さんとしてではなく、まるで近隣の住人のように興味を持ってくれた。(いや、でもこんなに毎日来ているから、気になるのも当たり前なのかもしれない。)
ダニエルにシェアハウスをキックアウトされたり、バイトをいくつかクビになったりと散々な内容を話したけど、当たり前のような感じで聞き入れてくれた。
常連さんも沢山いるように、ここには"人を迎え入れる家"っぽい雰囲気があった。
だから僕は僕は単に「ホステルから近い」という理由だけでなく、この人たちに吸い込まれるように毎朝足を運んでいたのかもしれない。
ラテと肉まんをレジ係のおばあちゃんがわざわざ自分が座っているテーブルに持ってきてくれて、「ありがとう」と言って僕にラテを渡した。
3人とも健康そうで常に笑顔。常連のお客さんがここに吸い寄せられる理由がわかるなー。
「コーヒーを美味しく作る」とか、「お金を稼ぐ」とか、店内が"今風でオシャレ"よりも、お客さんが居心地よく過ごすことを最優先にしているようなエネルギーが伝わってくる。
1ヶ月くらい経つと、僕がデリの自動ドアを通るだけで、「おはよー!ラテ、ポークバン?」と笑顔で聞かれ、僕がレジに向う途中に頷くとレジに着く頃には$8.50と表示されたカードリーダーが差し出された。
席に着くとおばちゃんが後からコーヒーを持ってきてくれていつものように「ありがとー」と言ってくれる。
「いいな、このお店のエネルギー。朝に来ると今日も一日頑張れるかもしれない。って思える」
他の常連の客と話しているおばちゃんを見ると少し嫉妬した自分がいることに気づいた。
「なんだ、たかがデリだぞ自分。。」
とはいったものの、毎日同じデリへ続けるのは流石に飽きてきたので、違う場所でテイクアウトをすることにした。せっかくコーヒーの王国オークランドで生活しているし!
デリから5分くらいのカフェを見つけて入った。道路が平面だったらもっと距離が近いと思うが、オークランドはどこもかしこも急勾配で距離が近くにあっても遠く感じる。平らな道路は一体どこにあるんだろうというくらい谷、山、谷、山って感じだ。
そのカフェのバリスタはアンドリュー。
コーヒーを作っている間の立ち話で分かったんだけど、彼自身でバリスタ教室に行って資格を取ってお店を始めたらしい。ここにも1ヶ月間くらい通い、僕が来ると何も言わずに$5.50というカードリーダーを差し出してきたくらいにまで常連にはなった。
味はすっごく良いんだが、寡黙だった。話しかけると、一言だけ返してまた彼自身の世界に戻っていく感じの人だった。まあ人それぞれのスタイルはあるから良いんだけど。
それにしてもオークランドのコーヒーはミルクが滑らかで濃くてスッと飲める。
オークランドの「俺らはコーヒーに手を抜かないぞ」という文化に魅せられてから、一日に何杯も色んな場所でラテをテイクアウトしてきた。あのデリとアンドリューの場所以外にも色々な場所のコーヒーを試した。もちろん良い味のコーヒーはオークランドにたくさんある。でもなんかまた、「あのデリに行きたい」と思うようになっている自分がいた。
次の日の朝、ホテルのシフト前に1ヶ月ぶりにあのデリに寄ることにした。
僕が1ヶ月離れていても、 「お、ラテ、ポークバン?」と2人のおばちゃんに聞かれた。 僕は「うん」と言った。
窓を掃除しているあばちゃんも 「お、どこ行ってたの、久しぶりじゃん」と声をかけてくれて、オークランドの色んなカフェを回っていたことを話すと、
「色んなコーヒーを試しなよ!ここはオークランドだよ!グッドコーヒー!グッドコーヒー!」と僕に言った。
席に座った後に、いつものようにおばちゃんが「ありがとう」と言ってコーヒーを運んできてくれて、常連さんもチラホラ現れて、、、
「あーやっぱりこの雰囲気!」
はじめは肉まんに吸い寄せられて入ったお店だけど、通い続けた理由は肉まんやコーヒーの味ではなく、アットホーム感や、おばちゃんたちの良いエネルギーだったことを再認識した。
「美味しいコーヒーがどこへ行っても飲めるオークランド」で生活をしてたが、あの笑顔とポジティブエネルギーを毎朝もらえるのは何事にも変え難い。
次の日の朝、僕の足は自然とあのデリへ向かっていた。
このデリは僕にとってのグッドコーヒー!
